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The  Shape  Of  Stomach

―恐怖!唐辛子地獄―


オレの常駐先の先輩に、Yさんという人がいた。
 

Yさんは、オレより3年前に入社した先輩にあたる。
ただ、オレが人生いろいろ回り道をした都合上、年齢的にはそれほど変わりは無く、今の常駐先のメンバーの中ではオレと一番話の合う先輩でもあった。

 

そのYさんが、昨年の12月をもって、退社することになった。
「いた」という書き方をしたのは、そのためである。
理由についてはよく分からないが、どうやら「実家に帰って家業を継ぐため」とのことだった。

 

Yさんの退社当日、12月27日のこと。

 
午後3時。おやつどき。

入社以来約6年間にわたって今の常駐先で働いてきたYさん。
その机の周りには、同じフロアで働いているYさんの同期の先輩が何人か集まって、歓談していた。

オレは、その様子を、仕事の傍ら何と無しに見ていた。

 
ところが、しばらくすると、Yさんの机の方から笑い声とも悲鳴ともつかないような声が聞こえてきた。

何事かと思ってそちらの方を振り向くと、何やらYさんがオレを手招きしている。
先輩方が一様にニヤニヤしていたことに多少イヤな予感はしたが、まさか先輩を無視するわけにもいかない。
オレは仕事を一旦中断し、皆さんの集まっている場所に向かった。
 


 
「よしだくんさ、お土産もらったんだけど食べる?」

「あっ、ハイ」

 
これは、オレの非常に悪いクセなのだが、誰かに「これ、いる?」というふうに問われると、オレはそのもらう物の内容をロクに吟味もせずに「ハイ」と言ってしまうのだ。
このときも、オレは簡単に「ハイ」と言ってしまった。もらうものが何なのか全く確認していないにもかかわらず、である。
 

Yさんから手渡されたのは、銀色の小型ビニール袋。
ちょうどオレの手と同じくらいの大きさのその銀色のビニール袋には、朱色で何やら印刷されてあったのだが、達筆(?)過ぎて、オレにはさっぱり読むことが出来なかった。

 
「・・・・・・・・・・・・?
これ、何て書いてあるんスか?」

「ん?"あわへい"

 

この"あわへい"という単語で、既にピンときた方もいらっしゃるのではないだろうか。
 

・・・・・・知らない方のために説明しておくと、この"あわへい"とは、東京・神田にあるせんべい屋の屋号のことで、この店の名物として知られているのが、「TVチャンピオン・激辛王選手権」でもおなじみの、唐辛子をふんだんに使った激辛せんべいである。

当然、オレがYさんから手渡されたのも、この激辛せんべいであった。

 

「・・・・・・・・ちょっ、ちょっと待って下さいよ!(大声で)」

「ウルサイよ、ここ客先だぞ」

「ぐっ・・・・・・(小声で)ちょっと待って下さいよ〜、自分、これ"激辛せんべい"だなんて聞いてなかったッスよ」

「お前、今"ハイ"って言ったじゃん」

 

こう言われてしまうと、もはやぐうの音も出ない。
気の進まないまま、銀色のパッケージを開く。

 
次の瞬間、周りから「うわぁぁぁぁぁ〜」という声があがった。
 

銀色のパッケージから顔を出した、真っ赤に燃える円盤状の物体――――――。
それは、せんべいに唐辛子を練り込んだと言うよりは、むしろ
唐辛子を無理矢理せんべい状に押し固めたと言った方が的確であった。

 

「何スかこれ〜!」

「いやいや、いいからいいから食ってみ!」

「いやちょっと・・・・・・・・いくら何でもこれは」

「お前、"ハイ"って言ったじゃん」

 

こう言われてしまうと、もはやぐうの音も出ない。
知らない人が見たら、まず「せんべい」とは答えないであろうその物体を、オレはしぶしぶひとかけらだけ口の中に入れた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・?

 

「どうよ!?」

「・・・・・・・・・・いや?
別に何ともな
ぁあああああ#$▲煤掾刀噤I!」

 

あまりにも刺激の強いものが入ると、人間の舌は感覚を捉えきれなくなるものなのだろうか。
なぜか若干のタイムラグを経て、オレの舌からは唐辛子以外の味覚は一切しなくなった。

 
(辛い!辛い!水で飲み込まなきゃ・・・・・・・・・)

そう思ったオレは、近くにあったお茶で一気に口の中に残っている物体を流し込んだ。

 
 

だが、この口の中での辛さは、この後に待っていた本当の地獄に比べたらほんの序の口であった――――――。

 

 
胃の中に無理矢理激辛せんべいを流し込み、一旦は落ち着いたかに思えたオレの身体だったが、再び新たな変調をきたすまでにそう時間はかからなかった。

「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

生まれてこの方こんなに大量の唐辛子を一度に摂取したことがなかったオレの胃は、まるで化学反応を起こしたかのように大量の胃酸を分泌し始めたのである。

 

熱いッス!

胃が熱いッス!

何かよく分かんないけど、胃の形がはっきりと分かるッス!!

 

・・・・・・・・その後、胃酸の大量分泌は5分経っても10分経っても治まることは無く、トルメキアの軍事力程度の強度を誇るオレの胃はあっさりと壊滅に追い込まれ、オレは定時までの2時間半の間に、トイレとの間を4〜5往復するハメになったのであった。

 

なお、その後Yさんも激辛せんべいを口にしたのだが、

「え〜?そんなに言うほど辛いか〜?」

と、オレがふたかけらほどでギブった激辛せんべいを、まるまる1枚完食していた。

 
おかしいよアンタ。


 
結局、激辛せんべいを口にしてからというもの、まったく仕事が手に付かなくなってしまったオレは、会社を早めに切り上げ、とっとと家に帰ったのであった。

 
「・・・・・・・・ただいまぁ」

「あらお帰り。良かったわ、今ちょうど晩ご飯できたところだったから。今日は鍋だよ」

「あ、そう?それより、ちょっと聞いとくれよ妻よ。今日Yさんが会社でさぁ――――」

 
とまで言ったところで、オレは廊下から漂ってくるニオイに気が付いた。
 

この刺激臭・・・・・・・・!
 
4時間ほど前にイヤと言うほど嗅いだこのニオイ・・・・・・・・!

 

まさか、と思って大急ぎで居間のドアを開けると、
 
コタツの上では、真っ赤に燃えるキムチ鍋がグツグツと音を立てていましたとさ。

 

おわり。


 

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